河出書房新社の源流は、1886年(明治19年)岐阜・成美堂が東京市日本橋区材木町に開設した同社東京支店にさかのぼる。以降、『哲学ノート』(三木清)、『何でも見てやろう』(小田実)、『なんとなくクリスタル』(田中康夫)、『サラダ記念日』(俵万智)など、だれもが一度は手にしたことのある幾多の名著、話題の書を世に送り出してきた。最近では、『蹴りたい背中』(綿矢りさ)、『ひとり日和』(青山七恵)、『冥土めぐり』(鹿島田真希)、『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』など、有名文学賞受賞作品も数多く手掛けている。そうした積み重ねの中で、業務システムの導入も早い段階で進められ、同業他社からの注目も集めている。
河出書房新社が扱っているアイテムは約6000点にのぼり、新刊だけでも年間に500点を超える。その膨大な出版物を管理するために、業界他社に先駆け、1980年代半ばには自社システムによる管理体制を作り上げていた。
「当時は、誰もが使えるシステムではなく、利用者数も限られており、専門のオペレータが集中的に伝票類を打ち込むというスタイルで管理していました」と同社 執行役員 総務部長 金綱氏は回顧する。
その独自システムは2000年12月に改修され、売上管理や在庫管理といった基本機能は大幅に強化された。但し、オフコンによる専用システムであったため、在庫を確認しながら電話注文を受ける、マスタを管理するなどリアルタイムな入出力を求める業務には不向きであった。そのため、電話注文を受けるための仕組み、書誌マスタをメンテナンスする仕組み、インターネット経由で受注した書店からの注文を処理する仕組みなどをサブシステムとして構築し、それらを統合できない状態が10年以上続いていたという。
2012年2月、それらの機能を一元化しつつ、効率的なシステムを作り上げる目的で、Publisher-Plusの導入に踏み切った。同社としては、3回目の大規模なシステム変更であった。
「1から新しいことを取り入れたというよりは、これまであったものを少し形を変えて使いやすくしたという感じです。今までは、手作りシステム的な感じだったんですね。やりたいことは明確だったので、使い勝手の向上と、従来の機能をPublisher-Plusで実現できるかがポイントでした」とシステム刷新の目的を説明する。
80年代から業界の先駆者的にIT化を進めてきた同社には、当然のことながら歴史と共に「河出流の管理」というような文化が生まれ、定着していた。いかに優れた機能やインターフェースを持ったパッケージシステムでも、その独自の文化に合わせるのは容易なことではない。 「ベースはパッケージシステムですが、それを河出流に調整していただいています。基本的には事前に大きな流れに関する打ち合わせをしていますので、導入後の調整は細かい点が多く大きな混乱はなかったです。また、システム構築の過程で、これまで気づかなかった業務の見直しのご提案をいただくことも多々あって、うちの非効率的な問題点を指摘していただいたこともあります」(金綱氏)。
また、そうした河出流管理にパッケージを対応させるだけでなく、導入に踏み切った大きなポイントとしてMacへの対応があった。もちろん管理者サイドとしては、 社内PCはWindowsで統一したほうが管理効率は上がる。しかし、出版に携わる現場では、Macでなければ業務上支障が出るということも多く、社内PCの約半数がMacであることから、 Macでも使えるシステムでなければシステム一元化の意味をなさなかった。その点についても、Publisher-Plusは柔軟に対応することができたという。
今回の大幅なシステム刷新にあたって、これまでになかった機能も開発中である。その一つが「電子書籍管理」。 同社はこの分野でも他社をリードする形で90年代から取り組みを続けている。
「電子書籍というのは、複数の電子書籍配信業者からレポートが上がってくるんですが、多種小ロットな上に、電子書籍業者の数が非常に多いのです。これを一つひとつチェックして…その売上を集計し…また著者に印税を払う…となると、想像を超えるレベルの作業量になってしまうのです」と金綱氏は状況を語る。インターネットの普及と相まって、電子書籍を扱う業者も増え、これまでのやり方では管理しきれない状況が生まれはじめているのだという。
パッケージシステムを導入する場合、「その業務には対応できない」と言われてしまうことも希ではない。ビジネスがシステムを規定するのではなく、システムがビジネスを規定してしまうという現象が生まれるのはこのためだ。ただ、河出書房新社の導入経緯を見る限りにおいて、Publisher-Plusについてはこの点は杞憂に終わりそうだ。